最初から最後まで息をつかせぬ展開で夢中になって一気に読み上げてしまった。雪穂と亮司のそれぞれの側で起こる謎めいた出来事の数々。最初は不可思議な気持ちでいたがだんだんこれはひょっとしたら・・・?と気づかせられる展開になっている。
ぞっとするくらい冷徹な亮司と仮面をかぶり本心を決して見せない雪穂。この二人の関係はそれこそ持ちつ持たれつのドライな共犯者なのかと思っていたが、実はそうではなかったのかもしれない。物語が進むにつれ亮司は雪穂の成功(幸せ?)を常に影からサポートしていたのだということがわかるからだ。つまり亮司の犯した犯罪の数々も単なる利益追求ではなく雪穂成功のためのステップだったのだと考えられる。
そしてなんとも印象的で胸をうったのがラストのシーン。警察に見つかった亮司は事故か自殺か分からない死を遂げる。それを見た雪穂は表情を変えることなく「知らない人です。」と言い切りその場を立ち去る・・・。これは「お前の(俺たちの)成功を邪魔しないために俺は死ぬ、だから後は分かっているな?」という亮司からのメッセージを雪穂が汲んだのではないだろうか。このとき初めて二人の関係の本質を垣間見た気がした。この物語は読んでいけば謎はすべて自然にするすると解けるようになっている。だからこそ最後のどんでん返しともいうべきものがここにこめられているように思えた。
二人の心情が一切語られることのないまま終わるからこそこれだけの余韻があり、感動があるのだと思う。それだけにドラマの内容は(幸いドラマを先に見ることはなかったが)正直どうにも解せない。この作品のよさをすべてそぎ落としてしまったような気さえしてしまうのである。
しかし、この小説は本当に素晴らしかった。「これを読まなくては人生を損するところだった。」、「この本に出会えて幸運だった。」と思える数少ない作品の一つとなった。
★★★★★(5)