非常にテンポがよくサクサクと一気に読めてしまった。「世界の終わりあるいは始まり」を読んでも感じたことだが、「若者言葉」の使い方がうまい。ひきこもりである主人公が小学生の美少女、「来未」にいいように使われ、おごらされ、呼び出され・・・しかしその裏で実は彼女は主人公に殺人の罪をきせる計画を着々とすすめていた、という話。主人公を罠にはめるためのやりくちが細部まで手が込んでいて秀逸。途中で主人公が1人2役で話をしていた人形(絵夢)が実体化したり、ピンチをやり直せるというルールが設けられたり、母親が実の娘の殺人を知ってもけろっとしていたり・・・と現実離れしてややおいてけぼり感を味わったが、そもそも最初に「真藤数馬のめくるめく妄想」と明記されているのでフェアといえばフェア。全て主人公の妄想とするなら主人公が知りえないようなファッションブランド名などはどこから出てきたのだろう・・・などという細かい疑問は残ったが。そして最後の最後も見事なフィニッシュ。「真藤数馬のまぎれもない現実」と題して実は主人公は両親を殺害しており、その現実から目を背けるためにそれまでの妄想をしていたことが明らかになる。表表紙と裏表紙の内側に主人公と絵夢の会話シーンがあるのだが、そこで両親殺しが匂わされているのも素晴らしい仕掛けだ。
★★★★(4.5)