一年も前から浄水器に毒を仕込み、誰もタンクに近づかせないようにする―殺したい相手にいかに毒を飲ませるのかではなく、飲ませないかに力を注いだ犯人。その逆転の発想はなかなかどうして面白かったがこの事件を解くのが湯川であった必要はあるのだろうか?と感じてしまった。科学的なトリックというよりも心理的トリックの要因が大きく、これはほかの探偵役のほうが向いていたように思われたからだ。また、今回の事件で決定的な証拠となった「犯人が使っていた空き缶」が犯人に恋をしてしまった草薙刑事の手元に残されていたという展開もややご都合主義な気がする。草薙の恋が犯人逮捕の決定打となるわけだが、彼が犯人に惹かれてゆく経緯がほとんど描かれていないためどうしても作品の都合上の恋、という印象を受けてしまう。そもそもとても几帳面な犯人が如雨露ではなく空き缶で花に水をやっていたというのが不自然であるし、いくら恋心をよせる女性が使っていたものだからとはいえ空き缶を洗いもせず部屋においておくというのはどうだろうか。というか警察なのにそのストーカーまがいの行為はどうなのだろうか・・・
そういった違和感を感じる点は多かったものの、トリック自体が(実現可能かどうかはさておき)非常に印象的で興味深かった。
★★★(3.5)