息をつかせぬ展開で特に後半は一気に読んでしまった。それぞれの目線で描かれる事件が別の目線から見るとまったく別のものになる、というのが面白い。人のよさそうな店長がその醜さにもかかわらず美人な妻と娘をもっていて不思議には思ったがまあ小説だしそんなこともあるよね、と流していたら妄想ですか、しかも娘って誘拐してきた女の子ですか、とか。この妄想上の妻は同級生と結婚したとある女優なのだがそのCMやエピソードが伏線として描かれているのに後から読み返して気付いてまたなるほど、と。「俺に家族なんていない」のセリフが楓を脅していた辰也の家庭環境を厭わしく思う気持ちから出たセリフかと見せかけて、店長の狂った生活を表していたり(しかも脅迫文も店長で辰也は潔白。ただし体操服は盗んだけどね)、楓が自分がそういうことの対象になるということを実感させられた、とする部分がさも義父に犯されたことのように思わせて実は店長に襲われたことを表していたり、とその辺の作りこみがうまいと感じた。真犯人が明らかになるときの描写も店長の口癖である「おれそのうち痩せるけどね」を使っているのも巧い。最後まで外道っぷりが半端なかった店長だが義父を殺したのは蓮、というのは意地悪でついた嘘なんじゃないかなぁ、と。昔暴力を振るったことは事実とはいえ性的行為は全て店長の濡れ衣で殺されてしまった義父は残念。就職活動もしてやり直そうとしていたのに。店長にその殺人を依頼した楓や義父の殺人未遂及び店長殺人(これは事故、あるいは正当防衛にあたるかな)を犯してしまった蓮の未来はどうなるのだろうか。そういえば辰也と圭介の母親が死んだのは結局単なる事故死ということで父親も里江も関係していなかった、ということでいいのかな。散々2人の妄想があっただけにちょっと釈然としないものもあったが・・・とにかく面白い作品だった。
★★★★(4.5)