叙述ミステリーにはまるきっかけとなってくれた運命的な一冊。
「そして誰もいなくなった」に模して連続殺人が行われる孤島パートとその島で過去に起こった事件の謎を解こうとする本島パートが交互に展開する。孤島パートの息もつかせぬ展開にはらはらし、こちらのパートだけを一気に読んでしまいたいとも思うのだがこの構成には大きな意味が隠されている。孤島の登場人物たちは「エラリィ」、「ポゥ」などミステリー作家の名前でお互いを呼び合っている。キャラクターを識別しやすく面白い試みだな、と思ったが実はこれもあとから深い意味をもってくる。
殺人にはトリックが使われているわけではないし、過去に起こった事件の謎というのも特筆すべき点はなかった。この作品の素晴らしく衝撃的な点はただ一つ、孤島パートに登場する「ヴァン」=本島パートの「守須」という真実だ。言われてみれば孤島と本島はモーターボートがあれば往復可能であることが仄めかされていたし、ヴァンが早くに部屋に引っ込んだ日に限って「守須」が登場している。だが、これは言われなければ全く思いもよらなかったことで小説だからこそ、登場人物にあだ名が設定されているからこその決定的な一手となっている。また、この叙述トリックをより衝撃的なものにするための演出もぬかりない。犯人がまだ誰かわからない状態で守須はあだ名を聞かれ、こう答えるのだ。「ヴァン・ダインです」。この時の衝撃といったら・・・!本当にしびれる。
その後、ヴァンの回想で孤島に向かった人数を1人少なく見せるための工作、風邪をひいた状態になるために「水絶ち」を行っていたこと、その回復のために本島でやたら水分をとっていたことなどが明かされそれぞれなるほどと唸ってしまう。
今回感想を書くために改めて読み返してみたが、真相を分かった上で読んでも随所に散りばめられた伏線の巧みさに感動することができた。
★★★★★(5)